新旧住民に感情のもつれ
県住宅供給公社がマンション値引き第2弾


県住宅供給公社(横浜市中区)は、売れ残りマンションのバーゲンセール第二弾として、販売を4年間凍結していた横浜市旭区若葉台の「若葉台団地」について、一戸あたり4割前後の大幅な値引き価格で販売を開始した。
住宅供給公社による分譲マンションの値下げ販売は、地価が大幅下落した首都圏を中心に相次いでいるが、購入した新住民との間でトラブルも引き起こしている。公社の事業内容を見直す動きも出ており、官主導の住宅供給事業は曲がり角を迎えている。

「不当販売」と抗議 ごみ出しなどでトラブルも
第二弾バーゲンセール初日の13日。同団地内にある若葉台販売センターには、格安の分譲マンションを目当てに、数十組の家族連れや中年夫婦らが訪れた。一方、値下げ販売前に購入した住民らは、マンションのベランダに「不当販売阻止」「住民同士が仲良く暮らせる環境を作れ」などと書かれた横断幕を掲げ、販売センターや売り出された物件の前で来訪者に抗議のビラを配った。値下げ販売をめぐっては、第一弾のバーゲンセールが行なわれた今年7月から、住民と公社の対立が続いておりこの日も両者の間には緊迫感が漂っていた。
今回の値下げ販売の対象は、若葉台団地「第31棟」(十四階建て)の全83戸。同公社がバーゲンセール第一弾として、1戸あたり平均44.3%、約2千500万円の大幅値下げに踏切った同団地「第30棟」と「第32棟」と同時に建てられた物件で、価格帯は2LDK2千390万から4LDK3千960万円までと、先行値下げ販売した2棟と同じに設定した。
セール第一弾では、1戸当たり平均39.3%、約2千200万円値下げした港北ニュータウン「やすらぎの街」(横浜市都築区)が8月いっぱいで完売。しかし、若葉台団地の2棟については、売り出した111戸の」うち40戸近くが売れ残り、明暗を分けた。同公社は「やすらぎの街より販売戸数が多く、最寄りの駅からも遠いのが響いた」などが原因とみている。
若葉台団地の「第30棟」と「第32棟」には、値下げ価格で購入した住民がすでに40戸以上入居し、新しい生活をスタートさせている。しかし、ゴミの捨て方や引越しのマナーをめぐってトラブルも発生しており、「不当販売に抗議する住民の会」は、「あくまでも(抗議の)相手は公社だが、新しく入ってきた住民に挨拶をしたくないなどという住民も出ている」と新旧住民間の感情のもつれを指摘する。

官主導事業曲がり角
県住宅供給公社は、戦後の人口急増期に住宅不足の解消を図るために、県が前身の県住宅公社を設立。地方住宅供給公社法が1967年に施行されたのに伴って、現在の組織体勢も移行した。これまで7万5千戸以上の販売実績を誇り、官業への信頼と価格の安さなどで人気を得ていた。
しかし、バブルの崩壊後は売れ行きに陰りがみえてきたばかりか、地価下落の影響もあって民間の分譲マンションと価格が逆転。2年ほど前から、東京や千葉などで売れ残り物件の大幅な値下げ販売が目立つようになり、値下げ前の価格で購入した住民らが民事訴訟を起こすなどの事態に至ったところもある。このため、都道府県住宅供給公社のな中には、分譲マンション事業から撤退するところも出ている。
大阪府や兵庫県では、すでに原則的に分譲マンション事業からの撤退を決定した。また、埼玉県では高齢者介護付き住宅や環境共生住宅などの整備に事業内容を特化している。
明治大学の長谷川徳之輔教授(住宅政策)は、都道府県住宅供給公社の今後の役割について、「売れ残りマンションの問題を早急に解決し、新規分野として、民間が手を出せないマンションのリフォームや立て替え、都市開発などに力を入れるべきだ」と提言する。
県住宅供給公社も「分譲マンション事業から撤退はしない」(立岡秀行・販売担当部長)と強調しているものの、来年度の介護保険制度導入などを念頭に、「今後は高齢者向け住宅関連事業になど時代のニーズに積極的に取り組んでいく」(同)との方針を明確にしている。
経済環境の変化と民間事業者の成長によって、その存在意義が薄れている県住宅供給公社が、新世紀への生き残りをかけた模索を続けている。

                     読売新聞1999年(平成11年)11月17日(水曜日)版より抜粋



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