2001/9/09
原告側準備書面(第9回口頭弁論から)

平成12年(ワ)第1157号 損害賠償請求事件

           準 備 書 面 9

平成13年7月23日
横浜地方裁判所
第5 民事部合議係 御中


第1 はじめに
平成13 年7 月4 日、第8 回口頭弁論期日及び同年7 月9 日進行協議期日において、裁判所は、被告に対し、原告準備書面7 第2 、1 (1 )から(6 )までの主張に対し、各項目毎に具体的な認否を行うように強く促した。
被告が具体的な認否を行った段階で、再度、詳細に反論をする予定ではあるが、訴訟進行の円滑な進行のため、被告の平成13 年7月4 日付準備書面(7 )に対する反論を行う。

第2 被告の平成13 年7 月4 日付準備書面(7 )第1 項に対する反論

1 被告は、「仮に、被告の販売担当者が左様な発言をしたとしても、当該販売物件に関し値下げは難しい若しくは値下げをする予定はない旨を述べたに過ぎず、それは当該担当者のその時点での個人的主観的認識を表示したに過ぎない。」と主張するので、この点について次の通り反論をする。

2 被告販売担当者が、被告の職員であり、被告が分譲した物件について被告の職員として原告に販売した事実に争いはない。被告は、この被告販売担当者の行為は、被告の業務として販売行為は行ったが、その際なされた「値下げ販売は一切行わない」等の発言は被告とは無関係の行為であるので、被告はこれらの発言にいささかも拘束されないと主張するものであるが、このようなご都合主義は許されない。その理由を以下に述べる。

3 そもそも被告担当者による「値下げ販売は一切行わない」等の発言は、一覧表に記載があるように全て原告ら・被告間の譲渡契約交渉の過程で、マンション市況の下降傾向による本件分譲住宅のキャンセルが相次ぐ中で勧誘行為として行われている発言である。
被告の主張は、当該勧誘行為と譲渡契約との関係について、勧誘行為については、自己ではなく担当者の責任に帰するものであり、譲渡契約は自己が契約の帰属主体であると主張するものであり、全くのご都合主義の主張であると言わざるを得ない。
ちなみに、平成12 年に成立した消費者契約法は、販売担当者の存在が予定される事業者による勧誘行為(不実の告知・断定的判断の提供・不利益事実の不告知・困惑行為)について、事業者の責任逃れを許さず、その結果締結された契約について消費者の取消権を認めている。
同法令の趣旨からも明らかなように勧誘行為とその結果存在する譲渡契約とは密接不可分の関係にあるところ、被告が主張するように勧誘行為は「被告担当者のその時点での個人的主観的認識を表示したに過ぎない」(被告準備書面7 ,1 (3 )項)とし、譲渡契約については被告担当者が締結の事実行為を行っていてもその効果は被告に帰属する、というが如き身勝手な使い分けは、法律論ではなく全くの詭弁であり、到底許容されるべき主張ではないのである。

4 次に、被告は、「販売担当者は、将来にわたる被告の経営方針を述べる立場にはないし、将来にわたり値下げをしない旨の約束をする立場にもない。」と主張する。しかし、一覧表を見れば明らかなように、本件で「値下げ販売は一切行わない」との発言を多数の買い主に対し行っているのは「販売担当部長」の餌取氏である。被告は、「販売担当部長」との肩書を有する人物の発言について、「被告の経営方針を述べる立場にない」と主張するが、では如何なる肩書の人物であれば、かかる立場にあると言うのか。
少なくとも、原告ら物件購入者と被告との間の取引においては、餌取氏は「販売担当部長」という販売部門の最高責任者であったのであり、原告らに対する勧誘行為の一環として原告らの購入動機の形成過程を構築すべく「被告の経営方針」「将来にわたり値下げをしない旨の約束」を行う立場にあったものと言うべきである。

5 さらに、被告は、「被告は宅建業法上の重要事項説明義務を負うものではないが、販売担当者の上記発言内容は、宅建業法上の重要事項に属する事項にかかわるものではないし、よしんばその種の事柄に発言が及んだからといって、そのことをもってそれが契約内容の一部を構成することになるというものでもない。」と主張する。
しかし、そもそも、被告に宅建業法の適用が排除されている理由は、被告のような公的性格を有する団体が消費者を欺罔し、消費者に不利益な結果をもたらすことが通常考えられないからであり、物件取得者保獲のための法的規制を施す必要性が存しないと法が期待したからである。
かかる公社法第47 条の立法趣旨に鑑みれば、被告のような公社は、宅建業法上規制されている説明義務にとらわれずに住宅取得者の利益を阻害するおそれのある事項につき、広く説明義務を負うと解するのが合理的である(その意味で、宅建業法上の重要事項説明義務が課せられているにすぎない民間事業者とは異なるのである。)。
従って、将来値下げ販売により、原告ら取得住宅の物件価値を下落させる可能性が存する場合には、被告はその旨説明をする法的義務を負うと解するべきであり、少なくとも「値下げ販売はしません。」との断定的な判断を提供し、原告ら物件取得者を誤認させ契約締結をさせてはならないことは当然である。
被告の「値下げ販売はしません」との言動及びこれについての被告の弁明は、法の前記期待を完全に裏切るものであると言わざるを得ない。
以上より、被告担当者による説明義務違反の存在は明白に認められる。

第3 平成13 年7 月4 日付被告準備書面(7 )第1 項(1 )に対する反論

1 被告は、「マンションの価格を土地価格と建物価格とに分けることは、原告独自の考え方である」と主張する。
しかし、本件において原告らは、適正な譲渡価格はいくらであったかを主張しているのであって、マンションの購入時における消費者心理を論じているものではない。
そもそも土地と建物は別個の不動産である(民法第86 条)。そして、住宅の価格は、集合住宅であれ、戸建て住宅であれ、土地価格と建物価格の合算である。これが大原則である。
被告の「敷地権付建物という一つのユニットを譲渡する」との主張(ユニット譲渡論)は、購入者の買受け心理の一面を付会するものではあるが法律論とは無線の印象論に過ぎず、価格算定の基準たり得ない。

2 被告は原告らの土地部分の価格と建物部分の価格についての主張事実について具体的認否を一切行うことなく、ユニット論を展開している。
このことからも原告らの主張した事実は否定しようもない不動の事実であることは明らかであり、そうでないというのならすみやかに具体的認否を行うべきである。
被告は、自己の訴訟審理への非協力を棚に上げ、「マンションの譲渡は、土地と建物とを個別に譲渡する事を目的としたものではない」との特殊ユニット論にすり替えて巧妙に認否を回避しようとしている。
さらに被告は、「敷地権付建物という1 つのユニットを譲渡する事を目的としている以上、譲渡価格を土地価格と建物価格に分ける事は全く意味がない。」と主張しているが、これは第2 期譲渡価格の算出根拠と明らかに矛盾した見解であり、この点からしても被告の独自の見解であるユニット譲渡論の論理は完全に破綻していると言わざるを得ない。
そこで、原告らとしては、仮に被告が従前の主張をそのまま維持するのであれば、論理矛盾、算出方法の違いについての合理的説明を明らかにした上で、原告らによる求釈明に対し真正面から具体的な認否を含め回答されるよう再度求めるものである。

                                 以上


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