2000/8/23
被告側準備書面(第二回口頭弁論から)

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平成一二年(ワ)第一一五七号 損害賠償請求事件

横 浜 地 方 裁 判 所
第 五 民 事 部 合 議 係  御 中

準 備 書 面
第一 被告神奈川県住宅供給公社について
一 被告の性格・監督
被告は、住宅の不足の著しい地域において、住宅を必要とする勤労者に居住環境の良好な集団住宅及びその用に供する宅地を供給するという神奈川県の行政需要を充足するため神奈川県から独立して設立された法人であって、講学上の「独立行政法人」である。形式的には神奈川県から独立した別個の法人としての形態をとっているが、広い意味での神奈川県行政の一環をなすものであって、その目的たる事業の遂行については。主務大臣又は神奈川県知事の監督に服する(地方住宅供給公社法(以下「公社法」という。乙一)第五条第二項、第九条、第二一条第二項、第二三条第一項、第二四条、第二五条、第二六条、第二七条、第三〇条第二項、第三二条、第三四条、第三五条、第四〇条第一項、第四一条、第四二条、第四三条、第四四条)。

二 被告の業務
1 被告は、前記設立目的を達成するため、住宅の積立分譲及びこれに付帯する業務を行なう(公社法第二一条第一項)とされている。住宅の積立分譲とは、一定の期間内において一定の金額に達するまで定期に金銭を受け入れ、その期間満了後、受入額をこえる一定額を代金の一部に充てて住宅及びその敷地を売り渡すことをいう(同条第二項)。言い換えると、積立分譲とは、公社があらかじめ積立期間、積立目標額等を設定し、住宅の購入予定者に定期的に積立を行わせ、積立満了後に、積立金と利息相当額及び公庫融資等による資金を併せて分譲代金に充当することにより住宅を譲渡するものである。
この積立分譲の場合の分譲住宅譲渡契約は、具体的には、積立金に関する契約であるところの『住宅の積立分譲に関する契約書』(乙二の一)と、当該住宅の譲渡契約に関する契約であるところの『「住宅の積立分譲に関する契約」に基づく譲渡契約書』(乙二の二)の二つの契約書から成るものである。
  2 被告は、また、前記設立目的を達成するため、積立分譲以外の方法による住宅の譲渡(以下「一般分譲」という)等の業務も行うことができる(同条第三項参照)。
この一般分譲の場合の分譲住宅譲渡契約は、積立分譲とは異なり譲渡に関する契約であるところの『分譲住宅譲渡契約書』(乙三)のみからなる。
3 原告らの中には、分譲住宅を、積立分譲の方法により取得した者と一般分譲の方法により取得した者とが混在するが、その締結した契約については、それが積立分譲の方法による分譲住宅譲渡契約であれ、一般分譲の方法による分譲住宅譲渡契約であれ、以下においては、今後特に断らない限り、いずれも単に「分譲住宅譲渡契約」という。
第二 被告の分譲住宅譲渡に関する法律関係について
一 公共団体等と私人との公法関係について
独立行政法人を含む行政主体としての公共団体等と私人との公法関係は、「支配関係」と「管理関係」に区別される。支配関係は、公共団体等が法律上優越的な意思の主体として私人に対する関係である。これに対し、管理関係は、公共団体等が公共の福祉のために財産を管理し事業を経営するものであり、本質的には私人間の法律関係と異ならない。管理関係にあっては、その目的に照らして必要な限度において実定法上特殊な法的規律が認められる場合もあるが、右のとおり本質的には私人間の法律関係と異ならないことから、民法等の一般私法が適用される。
二 裁判例
   前述したところにつき、被告と同様独立行政法人である日本住宅公団(当時)(以下、単に「公団」という)に関して、左のような注目すべき裁判例が存する。いずれも公団と賃借人の法律関係につき右と同旨の見解を示している。
@ 最高裁昭和五五年五月三〇日判決、裁判集民事一二九号六五一頁、判例時報九七一号四八頁「公団の賃貸する住宅(以下「賃貸住宅」という。)について公団とその賃借人との間に設定される使用関係は私法上の賃貸借関係であると解するのが相当である。日本住宅公団法施行規則一二条ないし一四条(注・当時)が賃借人の募集方法、資格、決定方法を定めているのは、公団の公共的性格にかんがみ、賃借人決定の公正を期したものであり、また同規則九条ないし一一条(注・当時)の家賃の決定、変更等及ぴ権利金等の受領禁止などに関する定めは、公団の公共性・非営利性に由来するものであって、これらの規定があるからといって、賃貸住宅の使用関係が私法上の賃貸借と異なる特別の性質のものであるということはできない。」
A 東京高裁昭和六一年九月二五日判決、判例タイムズ六四八号二五〇頁
「公団の賃貸住宅について、公団とその入居者との間に設定される使用関係は私法上の賃貸借関係であると解するのが相当であり(最高裁昭和五五年五月三〇日判決・裁判集一二九号六五一頁、判例時報九七一号四八頁)、したがって、公団はその入居者との間の賃貸借関係に基づき借家法七条一項の規定による家賃の改定を請求することができると解される(最高裁昭和五八年一二月八日判決・裁判集一四〇号六三一頁)。・・(中略)・・公団は、形式的には、国から独立した法人で、国の行政機関とは区別されなければならないが、実質的には、国との間に一体性を有するものと認めるべきであって、一種の独立の法人格をもった行政機関とも称すべきものであり、機能的には建設大臣の下部組織を構成し、広い意味での国家行政組織の一環をなすものと考えるのが相当である。
したがって、公団は、公法人として建設大臣(国)の監督に服すべきものであり、施行規則一〇条(注・当時)に定める家賃変更等についての建設大臣の承認も、建設大臣がいわば下級行政機関である公団の業務運営に対する行政上の規制監督手段の一つとして行う性質を有
するにとどまるものであって、国がある行為に同意を与えてその法律上の効果を完成せしめるものではないから、右建設大臣の承認の有無は、公団の控訴人らに対する家賃増額請求の効力に何らの消長をも来たすものではなく、また、右請求額の相当性についての裁判所の判断に何らかの法的影響を及ぼすものでもない。」
B 東京高裁昭和六〇年一月三〇日判決、判例時報一一四五号五二頁
「右算定基準(注・日本住宅公団法施行規則一〇条(注・当時)所定の建設大臣の承認に係る変更限度家賃算定基準)は、右変更申請の性格に照らし、建設大臣が、公団の業務運営に対する監督の観点から政策的配慮に基づいて公団の企図する家賃増額の相当性を判断しこれを承認するかどうかを決するための資料とされるにすぎないものであって、賃借人に対して通知された増額家賃が右基準に掲げられている個々の算定根拠にそのまま従って算出されているかどうかは、公団による家賃増額通知の私法上の効力を直ちに左右するものではないと解すべきである。」
C 最高裁昭和六〇年一一月二一日判決(注・右Bの上告審判決である。)
「旧日本住宅公団(被上告人被承継人)が、上告人との間の本件賃貸借関係に基づき、借家法七条一項の規定により家賃の改定を請求できることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和五八年(オ)第七一五号同年一二月八日第一小法廷判決・裁判集民事一四〇号六三三頁参照)。…原審の認定判断は、…正当として是認することができ」る。
三 分譲住宅譲渡の私法的規律について
ところで、被告の分譲住宅譲渡契約が前述の管理関係に属することはいうまでもない。この関係においては民法等の私法的規律が適用されること前述のとおりである。原告らと被告との分譲住宅譲渡は通常の売買であり、これに関する民法等の私法規定が適用されるところ、原告らは、被告の分譲住宅について、提示された譲渡対価を承諾した上、自由な意思で売買契約を締結したものである以上、後になってその対価が不当であった等と主張する余地のないことは言うまでもないことである。 原告らの主張は明らかに失当である。
第三 地方住宅供給公社施行規則について
一 行政命令
   公社法は、その第二一条、第二三条、第二四条、第二六条、第三〇条、第三二条、第三五条において、一定の事項について建設省令で定める、としている。これらに基づく建設省令として「地方住宅供給公社法施行規則」(昭和四〇年建設省令第二三号。以下、単に「施行規則」という。乙四)が定められているのであるが、この施行規則が独立行政法人である地方住宅供給公社の業務監督のための行政命令であることは明らかである。
二 司法審査対象外
行政命令は、法規命令と違って、国民(私人)の権利義務に直接関係しない行政機関内部の準則であり、行政命令をめぐる紛争、行政命令への適合性の有無は司法審査の対象となるものではない。
三 施行規則第六条について
1 施行規則第六条第一項について
 1 施行規則第六条第一項は、「積立分譲住宅の譲渡の対価は、積立分譲住宅の建設費、積立分譲住宅の建設に要した資金の利息又は利息に相当する金額、分譲事務費、空家等による損失を補てんするための引当金及び公租公課を合計した金額を基準として、地方公社が定める。」と規定している。
2 同項は、分譲住宅の譲渡の対価につき、建設費をはじめとする幾つかの費目を掲げ、それらを合計した金額を「基準」として「地方公社が定める」としている。右「基準」とは、「基礎となる標準」をいう(岩波書店広辞苑第五版)。  
即ち、施行規則第六条第一項は、分譲住宅の譲渡対価の決定に際して、同項が掲げる諸費目を合計した金額を標準として決定することを要請してはいるが、決して右各諸費目を合計した金額をもって分譲住宅の譲渡の対価とするとは定めておらず、要するに右金額を目安にし
た上地方公社が様々な要素を考慮してその上方であっても下方であっても然るべき価格を決定すべしとしているのである。
3 また、公社法第三三条第一項は、「地方公社は、・・・利益を生じたときは、・・・」と規定しており、同法自体被告の分譲住宅事業から利益が生じることを想定している。そして、同条同項は、右利益が生じたときは、「前事業年度から繰り越した損失をうめ、なお残余があるときは、その残余の額は、準備金として整理しなければならない」と規定して、利益を被告内部に留保すべきことを正面から認めている。
この規定の意味するところは、被告がその事業の結果として利益を生じさせることを否定するどころか、正面からこれを是認しているということであり、利益が生ずることを違法視したり、否定的に取り扱ったりしていないということである。利益が生ずるということは、施行規則第六条第一項が掲げる諸費目の単なる合計によって譲渡の対価が決定されるものではないということであり、右合計金額はあくまで基準であるということがここからも窺えるのである。
4 なお、第二、二A東京高裁昭和六〇年一月三〇日判決は、公団住宅の家賃につき以下のように判断している。
「控訴人は、その主張2において、公団住宅の家賃の算定にあたっては、当該建物及びその敷地の価格の上昇による評価益等の営利性を帯有する事項は排除されるべきである、と主張する。
・・・(中略)・・・本件契約書五条、施行規則一〇条の内容は前判示のとおりであり、公団住宅の家賃も賃借にかかる建物の使用の対価である点においては一般の住宅の家賃と本質的に異なるところはないのであるから、増額家賃の算定にあたっては、・・・(中略)・・・当該建物及びその敷地の価格の上昇による評価益をも算定の一要素として考慮に入れることが許されるものと解するのが相当である。」
さらに、第二、二C最高裁昭和六〇年一一月二一日判決は、右東京高裁判決に対し上告人が「公団法四八条の規定する利益は、継続的かつ多額の営利的利益を予想したものでない」「法四八条は公団賃貸住宅の家賃の増額について利益を上乗せする根拠とはなり得ない」旨を主張した上告理由を排斥して、原判決を相当としている。
5 結局、被告の分譲住宅の譲渡の対価も、分譲にかかる住宅の対価である点において、民間業者の分譲住宅の価格と本質的に異なるところはない。要するに施行規則第六条第一項は、被告が分譲住宅の譲渡対価について決定する権限を認めその基準を示す条項であって、被告が、譲渡の対価を決定するに当って、同条同項に規定する諸費目の合計金額を標準にして、市場の動向等をその要素として考慮することは何ら妨げられるものではない。
被告が原告らに譲渡した分譲住宅の対価は、被告が、いずれも当該時期において、若葉台団地周辺の民間分譲住宅を中心とした市場の動向を考慮し決定した価格である。
2 施行規則第六条第二項について
施行規則第六条第二項は、「地方公社は、特別の事情がある場合において前項の規定により難いときは、都道府県知事等の承認を得て、譲渡の対価を別に定めることができる」としている。なお、右知事等の承認は、被告の業務運営に対する県等の監督の一環であり、販売に際しての知事等の承認の有無は、被告のする分譲住宅販売の私法上の効果に何ら影響を及ぼすものではない。
四 施行規則第七条第一号について
1 原告らは、施行規則第七条第一号の定めをもって、契約締結から少なくとも五年間は、原、被告双方とも定められた価格を遵守し、維持する義務がある、と主張する。
施行規則第七条第一号は、地方公社が、分譲住宅を分譲する場合においては、五年間は、権利の設定又は移転については、あらかじめ地方公社の承諾を受けることを譲渡の条件としなければならない、とするものである。
ところで、原告らは、この規定によって直接規律されているのではなく、この規定を踏まえた、被告との間の分譲住宅譲渡契約における約定によって規律されているものである。
被告の分譲住宅譲渡契約は、被告の使命からして、事業用賃貸目的や転売目的ではなく、自らが居住する目的で購入する者との間で締結される必要があるのであって、五年間の譲渡制限というのはその目的を達成するために設けられたものであり、その定めは合理的である。原告らは、いうまでもなく、被告から提示された譲渡価格で買うか否かの自由を有しているところ、自ら購入を決定し、かつ、分譲住宅契約の右条項を承諾の上、契約に及んだものである。
したがって、被告と原告らの法律関係は、この契約の具体的条項により律せられているのである。もとより、右譲渡制限があるからといって、五年間は当該価格が遵守、維持すべきである、等という論にはつながらない。被告に五年間は定められた価格を維持する義務など存しない。
2 また、分譲住宅購入者が当該住宅に自らが居住する必要が無くなり譲渡を希望する場合、譲受人が自ら居住することを条件として(乙五)譲渡に対する承諾を求めることができる。実際、平成一一年一月一一日、若葉台団地第一七期分譲分のうちである三二号棟の区分所有者から譲渡承認の願い出が提出されたが、これに対し、被告は、同年二月二三日にこれを承認しているのであって(乙六)、右譲渡制限によって何ら支障は生じていない。
第四 求釈明
被告は、答弁書において、原告らに対し多岐に亘り釈明を求めたが、これまでの被告の主張に関連して、原告らに対し、先ずはそのうちの左記諸点を明らかにするよう重ねて釈明を求める。
一 原告らは、施行規則を行政命令と解するのか、法規命令と解するのか。
また、その根拠は何か。
二 原告らは、施行規則第六条第一項をいかなる内容の規定と解しているのか。
三 原告らは、施行規則第六条第一項に関連して「原価主義」ということをいうが、その内容はいかなるものか。
四 原告らは、施行規則第六条第一項が原告らと被告との関係に直接適用されるとするのか。そうだとすれば、その理論的根拠は何か。
五 原告らが、被告にあっては「被告の強度の公共的性格に鑑み、私企業のように需給バランスに基づき自由に分譲住宅の価格決定ができるというものではな」い、とする根拠は何か。
六 原告らは、被告が分譲住宅の譲渡の対価を決定するにあたり、市場の動向に一切配慮してはならない、とするのか。そうであれば、その理由は何か。
七 原告らは、施行規則第七条第一号をいかなる内容の規定と解しているのか。
八 原告らは、施行規則第七条第一号が原告らと被告との関係に直接適用されるとするのか。そうだとすれば、その理論的根拠は何か。
九 原告らは、「譲渡後においても原価主義に基づく価格を維持する趣旨から」施行規則第七条第一号の規定が存するとするが、そうであれば再譲渡は一切認めないとしなければならないのに、それを許しているのはどのように解したらよいのか。
第五 値下げ譲渡に至る事実経過
 一 被告は、平成六年三月一九目から同年四月一〇日まで、若葉台団地一七期積立分譲共同住宅(三二号棟)一一二戸の購入申込受付を行った(以下、「一七期」という。乙七、乙八の一ないし四)。譲渡価格は、施行規則第六条第一項に基づき、若葉台団地周辺の民間分譲住宅を中心とした市場の動向を考慮しつつ、被告が決定し、消費税(三パーセント)を含み、金三九八七万六〇〇〇円(二LDK)から金六九六〇万八〇〇〇円(四LDK)までの間に設定された(乙八の三)。右募集期間内に、一一二戸全戸について申し込みがあった。
 二1 被告は、その後、若葉台団地一八期分譲共同住宅一九四戸(以下、「一八期」という)の販売を検討した。しかし、一七期の分譲住宅について、買替え(自宅を売却し、その売却代金を資金として住宅を新たに購入すること)の不成立を理由とする解約が発生する等し、状況が変わったため、被告は、一八期の購入申込受付を延期した。
  2 そこで、被告は、一七期・一八期の販売計画を見直し、いわゆる「頭金後払制度(以下、「後払制度」という)」を導入して販売促進に努めた。この後払制度とは、購入者が、購入代金のうち住宅金融公庫からの融資以外の自己資金に相当する金額について、その一部(上限金一五〇〇万円)を、長期(最長三五年)にわたり繰り延べ払いすることができるという制度である(乙九の三・三頁、乙九の四・三頁)。
 三 そして、被告は、一八期は一九四戸の大量供給であるため、一次から三次の三つの時期に分けて販売することとした(以下、「一八期一次」「一八期二次」「一八期三次」という。乙七)。なお、一八期は、一七期とは異なり、全戸が一般分譲であった。
まず、被告は、平成七年一〇月一四日から同月二九日まで、一八期一次(三〇号棟の一部)六〇戸の購入申込受付を行った(乙七、乙九の一ないし三)。譲渡価格は、施行規則第一一条、第六条第一項に基づき被告が決定し、消費税(三パーセント)を含み、金四〇四三万円(二LDK)から金六九五二万九〇〇〇円(四LDK)までの聞に設定された(乙九の三)。
次に、被告は、同年一一月二三目から同年一二月三日まで、一八期二次(三〇号棟の残部)五二戸の購入申込受付を行った(乙七、乙九の一、乙九の二、乙九の四)。譲渡価格は、施行規則第一一条、第六条第一項に基づき被告が決定し、消費税(三パーセント)を含み、金四二六一万六〇〇〇円(二LDK)から金六八九四万二〇〇〇円(四LDK)までの間に設
定された(乙九の四)。
 四 しかし、平成八年一月時点で、一七期の契約済戸数が七三戸、一八期一次の申し込みが五戸にすぎず、一八期二次に至っては、申し込みが全く無かった。
 五 被告は、更に販売を促進するため、平成八年七月、後払制度の条件を一部変更することとし、購入者が被告に対し繰り延べ払いする元利金額の総額を減らすことにした。
すなわち、変更前の後払制度は、当初一〇年間は利息分年一パーセントの支払のみで、続く一一年から三五年までの間の返済は、固定金利四・五パーセントとするとしていたが、変更後は、当初一〇年間は無利息とし、続く一一年から三五年までの間の固定金利を二・〇パーセントとした。また、被告は、変更前の後払制度を利用していた購入者についても、変更後の制度を適用することとした。
また、被告は、それ以外にも可能な限りの販売努力を行った。
 六1 しかし、住宅の在庫は解消されず、他方で、神奈川県内のマンション市場で価格が下落していき、被告が設定した譲渡価格との差が開いていった。被告は、右譲渡価格を維持していては、住宅の在庫を早期に解消することは困難であると判断した。また、完成している住宅をそのまま空き住宅にしておくことは、社会的・経済的な損失である上、防犯・防災等の管理面でも早期に全戸に入居することが望ましいことから、被告は、一七期・一八期の住宅の価格について、二人の不動産鑑定士による不動産鑑定評価を行い、その鑑定評価額を基に譲渡価格を見直して販
売することにした。鑑定の対象には、各棟につき標準的な住宅(中間階層・平均的価格・平均的専有面積)一戸を選ぶこととし、具体的には、三〇号棟五〇四号室(一八期二次販売。譲渡価格金五五一九万四〇〇〇円)、三一号棟八〇三号室(一八期三次販売予定のため譲渡価格は未定)、三二号棟六〇四号室(一七期販売。譲渡価格金五六三五万三〇〇〇円)
(いずれも三LDK)を選んだ。
平成一一年三月二六日、横浜総合コンサルティング不動産鑑定士小林千秋及び横浜綜合鑑定事務所不動産鑑定士志賀善典から、不動産鑑定評価書が提出された(乙一〇ないし一三)。その結果は、次のとおりである。
@横浜総合コンサルティング不動産鑑定士小林千秋による鑑定結果
三〇号棟五〇四号室  金三二四〇万円(乙一〇)
三一号棟八〇三号室  金三三二〇万円(乙一一)
三二号棟六〇四号室  金三二四〇万円(乙一二)
A横浜綜合鑑定事務所不動産鑑定±志賀善典による鑑定結果(乙一三)
三〇号棟五〇四号室  金三〇一〇万円
三一号棟八〇三号室  金三一七〇万円
三二号棟六〇四号室  金三〇一〇万円
 2 被告は、名鑑定評価額に基づき新価格を算定し、平成一一年五月二一日、神奈川県知事に対し、施行規則第六条第二項、第一一条に基づく価格変更承認申請をなした(乙一四、乙一五)。そして、同月二八日、右申請は承認され、同月三一日、被告は、その文書を収受した(乙一六、乙一七)。そこで、被告は、平成一一年七月六日、一七期、一八期一次・二次分譲住宅既購入者に対し、一七期、一八期一次・二次の売れ残り物件について新価格による再販売を行うこと及び一八期三次の販売を行うことを通知した(乙一八)。
 七 1 被告は、平成一一年七月一〇目から同月二五日まで、一七期、一八期一次・二次で販売した三二号棟及び三〇号棟の中で売れ残っていた物件一一一戸につき値下げをして再販売を行い、購入申込受付を行った(以下、「本件値下げ販売」という。乙一九の一ないし三)。譲渡価格は、神奈川県知事の右承認を経て、消費税(五パーセント)を含み、三二号棟は、金二八二四万円(三LDK)から金三八六二万円(四LDK)までの間に設定された(乙一九の二)。三〇号棟は、金二四一〇万円(二LDK)から金三八三六万円(四LDK)までの間に設定された(乙一九の三)。なお、前記鑑定に付された三二号棟六〇四号室及び三〇号棟五〇四号室は、いずれも金三二一五万円とされた(乙一九の二)。
  2 また、被告は、同年一一月二ニ日から同月二一日まで、それまで未販売であった一八期三次(三一号棟)八三戸の購入申込受付を行った(乙二〇)。三一号棟は、三〇号棟(一八期一次・二次)と同時期に建設されたものではあるが、この時に初めて販売するものであるため、新規販売として、一七期、一八期一次・二次の値下げ後の譲渡価格とのバランスをとりながら、施行規則第一一条、第六条第一項に基づき被告が譲渡価格を決定し、消費税(五パーセント)を含み、金二三九〇万円(二LDK)から金三九六四万円(四LDK)までの間に設定された。なお、前記鑑定に付された三一号棟八〇三号窒は金三二四五万円とされた(乙
二〇)。
 八 なお、平成一二年七月二一日現在、一七期、一八期一次ないし三次で販売された三〇ないし三二号棟の三〇六戸のうち、成約に至っているのは二一九戸(成約率七一・五パーセント)である。
 九 このように、被告は、本件値下げ販売に至るまでの間、分譲空家住宅の解消のために、様々な努力を行ってきた。しかし、バブル経済の崩壊並びにバブル経済崩壊後に発生した需給関係の緩みにより、当初設定価格での販売促進活動では分譲空家住宅の早期解消は難しいこと、また、完成した住宅を未利用・未活用な状態で残すことは社会的・経済的な観点からも問題があり、団地本来の在り方としても、できるだけ早期に全体が利用されることが望ましいことから、抜本的な販売促進策をとることが必要であると判断した。
このため、被告は、両不動産鑑定士による鑑定結果の平均値をもって新価格とし、施行規則第六条第二項、第一一条に基づき、神奈川県知事に対し、譲渡価格変更承認申請をなし、同知事による譲渡価格変更承認を得た上、新価格での販売を行ったのである。
本件値下げ販売に至った経緯は以上のとおりであるところ、分譲事業者が売れ残り物件を値下げして販売することは当然のことであって、被告が本件値下げ販売をしたことによって原告らに対して損害賠償等の責任を負う理由はない。
以上


被告側準備書面(2)(第二回口頭弁論から)

平成一二年(ワ)第一一五七号 損害賠償請求事件

横浜地方裁判所
第五民事部合議係 御中

準 備 書 面 (二)

一、被告は、その平成一二年八月二三日付準備書面において、施行規側第六条第一項、第二項についての考えを明らかにした。

二、これに対し、原告らは、平成一二年八月八日付準備書面を提出した。しかし、そこで主張するところは極めて問題である。
1 先ず、彼告の右主張に関し、原告らは、「被告の譲渡価格の決定方法は施行規則第六条一項を基本とし、特別の事情のある場合には施行規則第六条二項を適用して新たな価格の決定をするというものと考えられ」ると要約しているが(二頁から三頁にかけて)、その要約自体不正確であるといわなければならない(被告の前記書面を熟読されたい)。
2 また、施行規則第六条第一項は、積立分譲住宅の譲渡の対価は、...を「基準として」[地方公社が定める]と規定しているところ、このカギ括弧を付した部分は極めて重要であり、おろそかにすることのできない文言であるが、原告らの前記準備書面では、右の規定部分をどう解するのかが全く明らかにされていない。
3 そして、原告らは、ひたすらに「特別事情」なるものだけを問題にし、それを判断するためと称し、被告に対し、原告らのいう「原価」に関する事項について釈明を求め、また、それに関連する要望を出している。「特別事情」というものは、施行規則第六条をいかに解するかということを抜きにしては論議しえないものであるが、原告らの主張ではこの点が全く明らかでない。

三、1 本件は、施行規則第六条第一項、第二項をどう解するか、ということを含め、施行規則の性格等、既に被告が提起した法律上の諸問題をいかに考えるかということが専ら争点になる案件である。しかるに、原告らは、彼告が既に明らかにしたその主張に対する認否等やそれらの法律上の論点についての自らの考えを明らかにすることを全くしないまま、独自の論点設定をし、被告に要求だけをしている。むしろ、被告は、原告らに対し、既出の求釈明に応えるべきこと、原告らの法律上の主張を明確にすべきことを求める。
2 また、原告らの前記準備書面第二、三の「しかしながら、...その根拠を失うことになる」との段落、それに続く「なお、...ということになる」との段落(いずれも六頁)の主張の意味が理解できないので、被告は、原告らに対し、意味が分明になるよう求める。


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